1. AIの軍事活用に関するトレンド
AIの軍事活用を巡り、米国国防総省とAIスタートアップ企業のAnthropicが対立している。Anthropicは「Claude」に代表されるAIサービスを米国の国防総省や国家安全保障機関に提供し、情報分析や作戦計画などに活用されてきた。しかし、用途の拡大を求める国防総省に対してAnthropicが制限の解除に慎重な姿勢を見せ「国内における大規模監視」「完全自律型兵器」を不安視する声明を発表し、結果として国防総省からサプライチェーンリスクとして指定された※1。この事象は、Anthropicが「責任あるAI」を重視している※2ことに起因する。
このような「軍事領域における責任あるAI」をテーマとした、国際的な取組があることをご存じだろうか。本コラムでは、その取組についてご紹介させていただく。
2. 軍事領域における責任あるAI(REAIM)サミットについて
OECDが2019年に採択した、AI技術の責任ある開発と利用を目指す世界初の政府間指針である「人工知能に関する理事会勧告」では、信頼できるAIの責任ある管理のための5つの補完的原則として、「人々と地球への価値創出」「人間中心の価値観と公平性」「透明性と説明可能性」「堅牢性とセキュリティ」「説明責任」の5つが挙げられている※3。
REAIM(Responsible AI in the Military Domain)サミットは、各国政府、国際機関、研究者、民間企業等が参加し、軍事領域における責任あるAIについて国際的な議論を行う枠組である。本サミットの取組は、国連の軍縮・安全保障分野の政策研究機関である国連軍縮研究所(UNIDIR)から高く評価されている。UNIDIRは政策文書※4にて、REAIMサミットはAIの軍事利用に関する国際的な関心を著しく高め、責任あるAIに関する議論を自律型致死兵器システム(LAWS※5)の枠を超えて進め、AIの多面的な影響を効果的に浮き彫りにし、幅広く国際的な政策関与を促進した、と評価している。
本サミットの目的は、AIが膨大なデータの活用や意思決定の高度化など大きな可能性を有する一方で、予見し得ないリスクも伴うため、国際法を遵守し国際的な安全保障・安定・説明責任を損なわない形で、軍事領域における責任あるAI利用を確保することにある※6。第1回は2023年2月にオランダのハーグ、第2回は2024年9月に韓国のソウル、第3回は2026年2月にスペインのア・コルーニャ にて開催された。
3. REAIMサミットの成果文書
REAIMサミットでは毎回、成果文書が取りまとめられ、参加国に対してその内容への支持が求められる。第1回から第3回にかけて、責任あるAIの実現に向けた提言の内容は、成果文書を通じて段階的に具体化されてきた※7。

第3回の成果文書(Pathways to Action)では、第1回および第2回で示された提言の実行に向けた具体的な取組事項が整理されている。例えば、TEVV(テスト、評価、検証及び妥当性確認)要件の政策への統合、ライフサイクル全体を通じた監査証跡の確保、デジタルフォレンジックの推進など、実務的な内容が多く含まれている。最新の第3回成果文書で示された全28項目の提言について、本コラム末尾に日本語訳を掲載する。
第3回サミットにおける議論は、参加者の学際的な構成やハイレベルな議題設定の影響もあり、抽象的な内容が多く見られる。一方で、成果文書自体は、REAIM原則の運用化に向けた提言に必要とされていた具体性を提供している。REAIMサミットの成果の一つは、成果文書に反映された軍事AIに対する現実的な視点であり、その内容は第1回サミットを契機に発足したGC REAIM(Global Commission on Responsible AI in the Military Domain)が作成した「戦略指針報告書※8」で示された提言と同様の方向性を持つと、米国の法政策ジャーナルは分析する※9。
4. 支持国の変化
REAIMサミットの成果文書は、参加国によって支持が表明される。支持表明は任意であり、参加国が必ずしも成果文書を支持するものではない。第2回の成果文書は、参加国の約68%(90か国中61か国)が支持を表明した。しかし、第3回の成果文書への支持は、参加国の約41%(85か国中35か国)となり、大きく減少した。支持減少の理由は、米国と欧州同盟国間の緊張感の高まりとの見方が強い※10。日本は第1回から第3回の成果文書全てに支持を表明しているが、第2回まで支持を続けていた米国が第3回は支持していない。
米国が支持表明しなかった理由は、バイデン政権からトランプ政権に変わり、責任あるAIの捉え方が変化した可能性があるためと考えられる。2026年1月に国防総省長官から同省内部に向けたAI戦略指示文書※11では、「軍事AIは当面の間競争の場となり、スピードが勝負の鍵となる」と述べており、冒頭で触れた国防総省のAnthropicへの対応に見られるように、責任あるAIに関する検討よりも軍事AIの競争力や迅速な活用を重視する姿勢がうかがえる。
5. REAIMサミットの今後
米国というAI大国からの支持を失うことは痛手である。しかし、国連総会第一委員会の決議※12において、「責任ある軍事AI」が2026年6月にジュネーブで開催される次回国連総会の議題に取り上げられることが決定されている。また、同決議では、国際協力の強化や能力構築の推進等に加え、「責任あるAIに関連する多国間の対話」に関する取組の継続が奨励されている。
軍事領域における責任あるAIに特化した多国間の政策プロセスが存在しない現在、産業界も含めた多国間での議論が行われるREAIMサミットという枠組は有用である。支持国の減少といった動向は見られるものの、国際的な議論を継続させる枠組としての意義は依然として高く、今後の動向が注目される。





- アンソロピック、「違法な報復」と米国政府を提訴(Impress Watch) https://www.watch.impress.co.jp/docs/news/2091955.html(2026.3.24閲覧)
- アンソロピックの透明性ハブ(Anthropic)
https://www.anthropic.com/transparency(2026.3.24閲覧) - 人工知能に関する理事会勧告(OECD) https://wecglobal.org/uploads/2019/07/2019_OECD_Recommendations-AI.pdf(2026.3.24閲覧)
- 軍事分野における人工知能とその国際平和・安全保障への影響、国際平和と安全保障(UNIDIR) https://docs-library.unoda.org/General_Assembly_First_Committee_-Eightieth_session_%282025%29/79-239-UNIDIR-EN.pdf(2026.3.24閲覧)
- 「一度起動すれば、操作者の更なる介入なしに標的を識別し、選択し、殺傷力を持って交戦することができる」という特徴を備えている兵器システムのこと。
自律型致死兵器システム(LAWS)について(外務省) https://www.mofa.go.jp/mofaj/dns/ca/page24_001191.html(2026.3.24閲覧) - 第1回成果文書“REAIM 2023 Call to Action” (オランダ政府)
https://www.government.nl/documents/publications/2023/02/16/reaim-2023-call-to-action(2026.3.24閲覧) - 第2回成果文書“REAIM Blueprint for Action” (大韓民国外交部)
https://www.mofa.go.kr/www/brd/m_4080/down.do?brd_id=235&seq=375378&data_tp=A&file_seq=9(2026.3.24閲覧)、第3回成果文書 “REAIM 2026 Pathways to Action” (スペイン政府)
https://www.exteriores.gob.es/en/REAIM2026/Documents/REAIM%202026%20Pathways%20to%20Action.pdf(2026.3.24閲覧) - 軍事領域におけるリスク・機会・ガバナンスに関する戦略指針報告書(GC REAIM)
https://hcss.nl/report/gc-reaim-responsible-by-design-strategic-guidance-report/(2026.3.24閲覧) - 人工的な緊急性:2026年REAIMサミットにおけるAIの誇大宣伝を振り返る(JUST SECURITY)
https://www.justsecurity.org/132504/ai-hype-2026-reaim-summit/(2026.3.24閲覧) - 米中、軍事におけるAI活用に関する共同宣言から離脱(ロイター通信)
https://www.reuters.com/business/aerospace-defense/us-china-opt-out-joint-declaration-ai-use-military-2026-02-05/(2026.3.24閲覧) - Artificial Intelligence Strategy for the Department of War
https://media.defense.gov/2026/Jan/12/2003855671/-1/-1/0/ARTIFICIAL-INTELLIGENCE-STRATEGY-FOR-THE-DEPARTMENT-OF-WAR.PDF(2026.3.24閲覧) - 軍事分野における人工知能と国際平和と安全保障への影響(国連総会)
https://docs.un.org/en/A/RES/79/239(2026.3.24閲覧)